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甲府地方裁判所 昭和28年(行)10号 判決

原告 藤巻義次

被告 甲府市長

一、主  文

原告の第一次の請求を棄却する。

原告の予備的の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は第一次の請求として被告が昭和二十三年十二月十四日附を以て為した「甲府市百石町二百三十二番の一宅地百五十三坪の内二十五坪七合九勺を減少し残百二十七坪二合一勺を現地換地予定地として原告に交付し右減少せられた二十五坪七合九勺を訴外菊地原やすに飛換地予定地として交付する」との換地予定地指定処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決、予備的請求として被告は右換地予定地指定処分の内「二十五坪七合九勺を減少し残百二十七坪二合一勺を原告に交付す」とあるを「十一坪二合二勺を減少し残百四十一坪七合八勺を原告に交付す」と又「右減少せられた二十五坪七合九勺の土地を訴外菊地原やすに交付す」とあるを「右減少せられた十一坪二合二勺の土地を訴外菊地原午郎、菊地原緑郎、菊地原八郎、菊地原重郎に交付す」とそれぞれ変更せよ、との判決を求め第一次請求の原因として甲府市百石町二百三十二番の一宅地百五十三坪は原告の所有であるが右土地は特別都市計画法に基き土地区劃整理施行地区に指定せられ被告は昭和二十三年十二月十四日附を以て請求趣旨記載の如き換地予定地指定処分をした。而して右処分は原告所有宅地の一部を減少しその残部を原告の現地換地予定地として指定し又右減少した土地を訴外菊地原やすの飛換地予定地として指定したもので二個の処分を包含し、両者は正に不可分の関係に在るものということができる。ところで特別都市計画法第十四条に依れば換地予定地の指定は予定地として指定せられた土地に対し従前の土地所有者の使用収益権を制限しその権限を予定地の上に附与する効力を有し本換地処分以前において既にこれと同様の効果を発生する処分である。従つて右換地予定地の指定を受ける者は常に実在人でなければならないことは勿論である。もつとも旧耕地整理法第四条は本法又は本法に基きて発する命令の規定により為した処分手続その他の行為は整理施行地の所有者占有者又は関係人の承継人に対してもその効力を有する旨規定しているけれどもこの規定あるが故に直ちに実在せざる者に対する換地予定地指定処分の効力がその承継人に及ぶものということはできない。しかるところ訴外菊地原やすは昭和二十二年一月七日に死亡しており本件処分当時においては実在していなかつたのである。それならば死者である同人に対して為された換地予定地指定処分は当然無効であるから之と一体を為す原告に対する本件処分も亦無効であるといわなければならない。仍て原告は右処分の無効確認の判決を求め、予備的主張として仮りに本件処分が無効でないとするも前述のとおり訴外菊地原やすの死亡により同人の所有土地については昭和二十二年三月十三日その相続人である菊地原午郎、同緑郎、同八郎、同重郎の四名において相続に因る所有権移転発記を完了し昭和二十五年三月十日従前の土地である甲府市百石町第三番の三宅地三百五十五坪四合四勺の内百五十坪八合を訴外山梨中央銀行に売却し更に昭和二十七年六月十日その一部を訴外徳光教甲府教場に寄附したので、現在残部百五十四坪六合四勺を所有するに過ぎない。而して飛換地は換地せられるべき土地の面積に応じて減少せられなければならない筋合であるから本件処分により菊地原やすの相続人に交付すべく予定せられた二十五坪七合九勺は当然十一坪二合二勺に縮減せられなければならないこととなりしかも甲府市の特別都市計画は最初百五十万坪の予定であつたが建設省において現在三十七万五千坪に縮少し百石町線道路も二割程度の減少をみるべく決定せられているのであるから本件換地予定地は当然減少せられなければならない。又右処分の相手方も菊地原やすの相続人である前掲菊地原午郎外三名と更正すべきものであつて本件処分は右限度において変更すべきものであるから請求趣旨記載の如き判決を求めると陳述し被告の本案前の抗弁に対し本件における主たる請求は行政処分の無効確認を求めるものであつてその取消を求めるものではないから訴願前置の適用を受けない。又予備的請求については原告が本件処分を知つたのは昭和二十三年十二月十四日頃であるけれども本件において主張する事実は訴願提起期間経過後生じたものであるから訴願を経ることなく提起した本訴は適法であると述べた(証拠省略)。

被告訴訟代理人は原告の請求をいづれも棄却するとの判決を求め先づ本案前の抗弁として原告の本件訴は当然その内容として被告の為した換地予定地指定処分の取消請求を包含するものであるから行政事件訴訟特例法第二条により訴願を経由しなければならないところ右訴願を経由しておらないから不適法として排斥せらるべきものである。次に主たる請求に対する答弁として甲府市百石町二百三十二番の一宅地百五十三坪が原告の所有に属し被告が右土地につき特別都市計画法第十三条に基き原告主張のような換地予定地指定処分をしたこと、訴外菊地原やすが原告の主張の日に死亡したことはいづれも認めるがその余の主張事実は否認する。区劃整理により街路、公園広場等の都市計画施設を実現するに際り之等の敷地となるべき部分を留保し残地を各土地所有者に配分設計する関係上前掲原告の所有地の使用が制限せられることは当然のことである。このことは区劃整理の特質であつて従前の土地の一部又は全部が所有者以外の者に使用されると否に拘らない。従つて特別都市計画法第十三条、耕地整理法第三十条に基いて為された原告に対する本件処分には何等無効とすべきものがない。又甲府特別都市計画事業土地区劃整理施行規程第三条第十九条によると従前の土地は昭和二十年八月十五日の台帳公簿記載を以て締切りその後の異動については之を届出なければならない旨定められており被告は右規程に基き本件処分を為したものであつて菊地原やすの死亡による土地所有権の異動については何等届出がなされていないのであるから同人に対する被告の処分にも亦何等違法の点はない。しかも耕地整理法第四条によると同法に基く一切の行為は承継人に対してもその効力があるのであるから右処分は決して無効ではない。予備的主張に対する答弁として原告主張事実は否認する。仮に菊地原やすの所有地につき原告主張のような変動があつたとしてもそれは本件処分が通知せられた昭和二十三年十二月十四日以後に生じたものであるから被告の処分には何等影響がないと答弁した(証拠省略)。

三、理  由

先づ主たる請求に関する本案前の抗弁について判断するに右請求は被告のなした換地予定地指定処分が当然に無効であると主張しその無効確認を求めるものであつて抗告訴訟に属しないから行政事件訴訟特別法第二条の適用がなく従つて訴願の前置を主張する右抗弁は理由がない。

次に右の本案については甲府市百石町二百三十二番の一宅地百五十三坪が原告の所有であつて被告が昭和二十三年十二月十四日特別都市計画法第十三条の規定に基き右宅地の内二十五坪七合九勺を減少し残部百二十七坪二合一勺を現地換地予定地として原告に交付し右減少せられた二十五坪七合九勺を訴外菊地原やすに飛換地予定地として交付する旨の換地予定地指定処分をしたことは本件当事者間に争のない事実である。原告は右処分は実在せざる者に対し換地予定地を指定する処分を包含するものであるから全体として無効であると主張し訴外菊地原やすが昭和二十二年一月七日死亡し右処分当時既に実在しなかつたものであることはこれ亦当事者間に争がない。しかしながら特別都市計画法第十三条の規定に基いて行はれる換地予定地の指定は土地区劃整理の施行に際りなるべく早く土地の権利者の権利関係を安定させるために換地確定前に大体換地と同様の土地を予定地として権利者に与えるという趣旨も含まれるであろうけれども直接の目的としては土地区劃整理の工事として建物等の工作物を移転する必要上行われるのであつて右処分により従前の土地所有者及びその関係者は従前の土地についての使用収益権を制限され換地予定地として指定された土地の上にその権能を持つに至るのである。換地予定地の指定処分は右の如き性質のものであるから専ら土地そのものを対象として行はれる一の対物的処分であつて土地所有者のみならず総ての関係者が右処分の効力を受けるものである。もとより権利義務の主体たり得ない虚無人を相手方として為された行政処分は原則として無効というべきであるけれども右の如き性質を有する換地予定地指定処分についてはたとえ処分当時既に死亡せる者に対し予定地を指定するものであつてもその相続人の存在する限り無効行為転換の理論に従い右処分は相続人に対して効力を有するものと解するのが相当である。それならば本件において訴外菊地原やすの死亡により同人の有した従前の土地の所有権は菊地原午郎外三名が相続したものであることは弁論の全趣旨により明らかであるから同訴外人に対する処分はその相続人である菊地原午郎外三名に対して効力を有することとなるので右処分が当然無効であることを前提とする原告の主張は理由がないことに帰する。

次に予備的請求について考えてみるに、右請求は行政処分の変更を求めるものであるから抗告訴訟に該当し行政事件訴訟特例法第五条所定の出訴期間内に提起せられなければならない。しかるところ原告が本件処分のあつたことを知つたのは右処分の為された昭和二十三年十二月十四日当時であることは原告の自認するところであるから該処分の変更を求める訴は右処分のあつたことを知つたときから六ケ月内に提起しなければならないところ原告は昭和二十八年九月二日本件を提起し昭和二十九年三月一日に至つて右処分の変更を求める予備的請求を追加したものであることは訴訟の経過に徴して明らかである。それならば本訴請求は前掲特例法第五条第一項所定の出訴期間経過後に提起せられたものといわなければならない。而して同条第一項所定の出訴期間は不変期間であるからその不遵守は民事訴訟法第百五十九条所定の場合においてのみ救済されるのであつて違法原因として主張する事由が出訴期間経過後に生じたものであるとの理由だけでは期間経過後に提起せられた訴を以て適法と為すことはできない。もつとも換地予定地の指定処分は終局的換地処分の前段階的な処分であつてその内容は確定不動のものではないけれどもそれ自体として前認定の如き固有の目的法律効果を有するものであるからこれを争い得る出訴期間も右処分自体について算定すべきであつて右処分を独立した一の行政処分と解する以上後続する換地処分について争い得る状態にあるかぎりは適法に出訴できるものと為す何等の根拠がない。或は本換地処分が為され後これを争うにおいてはその違法を回復し難い場合もあろうけれども原告主張の如き場合においては都市計画法によつて準用される旧耕地整理法第四条の適用上換地予定地指定処分は従前の土地の承継人に対してもその効力を有するのであるから特にその換地を減少する必要のないことを附言する。はたしてそれなら原告の予備的の訴は出訴期間経過後に為されたものとして不適法たるを免れない。

仍て原告の第一次の請求は失当として又予備的請求は不適法としてこれを排斥することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山孝)

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